ニホンジカ(偶蹄目シカ科) Cervus nippon

東京都の委託調査による奥多摩のシカの推定生息個体数は、1992〜93年では、386頭前後であったが、1998〜99年には982頭前後、2002年には2560頭前後と急増しています。私がおこなっている自動撮影でも、一般的なけもの道でもっとも頻繁に撮影されている動物はシカです。このページでは、ニホンジカの生態とともに、シカの増加に伴なって進行しているシカの食害による森の荒廃の様子も紹介していきます。

東京奥多摩でのシカによる斜面崩壊などの森林被害状況や対策「東京都シカ保護管理計画」についての詳細は、こちらをぜひご覧ください。

また、2004年春に撮影したシカの死体に集まる動物たちの記録を、独立したページでご紹介していますので、そちらもご覧ください。

       

2000.11月 棒角(枝分れのない)の冬毛の若いオスジカ

2000.11月 三尖角のオスジカ

2001.4.21 近年、奥多摩でも、シカの増えすぎが原因で、下層植生が消失している森が増えている。特にエサ不足となる冬期間、落ち葉や樹皮を食べてしのぐシカが増えている。このシカは途中で右方向を警戒して、尻の白い毛を広げて警戒サインを出している。動画はこちらから(640KB)。

2001.8月 シカに喰われてもうほとんど葉の残っていないササ原の中から現れたメスジカ。

2001.10.23 冬毛のメスジカ

2002.6.29 成長途中の角。ビロード状の毛におおわれている。

2002.7.4 夏毛のオスジカ。角が生え始めている。

2002.7.14 夏毛のメスジカ。少ない下層植生を探している。

2002.7.14

2002.12.18  四尖角・冬毛のオスジカ。この写真から、2003.3.20の写真までは、ほとんど同一場所での撮影である。

2002.12.18 やや貧弱な三尖角のオスジカ。

2002.12.20 冬毛のメスジカ

2003.1.8

2003.1.8 三尖のオスジカ

2003.1.13 四尖のオスジカ カメラを警戒して見上げている。

2003.1.20 足がほとんど埋まりそうな大雪の中、腹を雪にこするようにして歩くシカ。シカは、足が細く雪にもぐりやすいので、50cmを越える積雪が続くと動きが取れなくなる。また冬の主な食料であるササが雪に埋まってしまうこともあって、大雪の冬の間に個体数を大幅に減らすことになる。最近の全国的なシカの増加の一つの原因は、暖冬の年が増えて、大雪が減ったことであるといわれている。(他にも、狩猟の減少、伐採や植林による食草の一時的増加、古くは捕食者であるオオカミの絶滅がシカ個体数増加の原因となっているといわれている。)

2003.4.21 角が脱落したオスジカ

2003.4.22 まだ角が脱落していないオスジカ。この時期、オスジカには角が脱落しているものと残っているものが混在している。

2003.6.7 雄シカ

袋角が伸びつつある。

2003.6.26 シカ母仔

この親子は連日この場所を通過している。背中線の黒色が目立つ。

2003.9.28 5:17

ブナの木の前で、三尖の角を持つオスジカが、前足と角を使って、落ち葉をかき分けてから、座って休む。動画はこちらから

シカの休み跡。落ち葉を脚や角でかき分けて地面に直接座って休む。

2003.10.26 5:53

採食移動する4尖のオスジカ。夏毛の白斑が残っている。地面を掻いたあとであろうか、角の先に落ち葉が刺さっている。交尾期で首の背中線の黒毛が目立つ。

2003.10.6 13:09

1200mほどの雑木林の中で、採食中の雄シカとサルの群が遭遇した時の様子です。動画はこちらから。採食中のオスジカが、一瞬頭を上げて、サルの群が移動してきている向こうの斜面を見やる。

2003.10.6 13:09

右上のシカとサルの遭遇の続き。動画はこちらから。サルの群はその後採食しながらシカのすぐそばを通過していく(↓)が、シカは我関せずで採食を続ける。

2003.10.6 13:10

シカとサルの遭遇の続き。1200mほどの雑木林の中で、採食中の雄シカとサルの群が遭遇した時の様子です。動画はこちらから。すぐそばのサルナシのツルをつたってサルが下りてくる(→)が、シカは全く無視。シカもサルのお互いに警戒する存在ではないようである。

2005.6.9 オスジカ

袋角が成長しつつある。夏毛である。

シカの食圧で低木層・草本層などの下層植生が失われた雑木林(日原周辺)。シカの口が届く範囲以下の高さには緑がない。(「ディアライン」という)

奥多摩では近年、こうした雑木林が増加してきている。今後、森の更新に支障が出たり、急斜面では表土流出・斜面崩壊なども心配されるところである。

シカの食圧がまだそれほど強くない地域の下層植生の豊かな雑木林(奥多摩湖南岸)。近年、奥多摩湖南岸地域にもシカは分布を広げているが、北岸に比べればまだ密度は低く、まだ下層植生が維持されている。

シカの食圧で葉のほとんどないブナ林内のササ。10年ほど前までは、背丈を超えるササで歩くことも困難であったが、年々食圧で後退して、現在はシカ道が縦横についていて歩きやい。シカにとって、ササは冬期間の重要な食料である。

単に植生の変化にとどまらず、ウグイスなどヤブの中で巣作りをする野鳥が営巣場所を失って減少して鳥相が変化したり、下層植生を食草とする昆虫が減少したりして、生態系全体が変容していく恐れがある。

樹皮食いされた広葉樹。幹のまわりを全て喰われると、水や栄養の移動ができなくなり、その木は枯れてしまう。

形成層を好んでかじり、歯の跡が残る。

集落を丸ごと包むように設置されたシカ柵。設置した後も、定期的に巡回し、破損箇所を修理していかないと、シカが通過できる場所を学習してしまい、効果が低くなってしまうので、維持が大変である。

植林木を食害から守るためにつけられた食害防除筒。急斜面で、1本1本の植林木に筒をつけていくことは大変な作業である。

左の拡大写真。

   

1200mほどの雑木林に設置したビデオカメラからの映像及びシカによる樹皮食い被害の様子の写真です。

2003.9.25

もっとも頻繁に自動撮影ビデオカメラに写る動物は、シカである。この山域(日原周辺)では、林床の植物はほとんどシカによって食べ尽くされている。落ち葉の中で少しでも食べられるものを探して食べているようである。真ん中のハリギリの木は、シカによる樹皮食いで枯れてしまっている。それでも気になる臭いが残っているのか、樹皮の臭いを嗅いでいる。動画はこちらから

お腹の空いたシカは、木の樹皮をかじる。シカの樹皮食いには選好性があり、この森では、リョウブ、ナツツバキ、ヤマボウシ等の樹皮を特に好んで食べている。この写真では、真ん中右がヤマボウシ、左奥がナツツバキの木で、どちらも幹のまわりを全て樹皮食いされている。

木の幹のまわりを一回り全て樹皮食いされると、水や栄養分の移動ができなくなり、半年から1年くらいの間には枯れてしまう。このヤマボウシの木は今春(2003年)満開の花を咲かせたが、その後わずかな葉が残るだけとなり、今にも力つきて枯れそうである。(結局、2004年、春になっても開葉せず、枯れてしまった。)

シカの樹皮食いのため、完全に枯れてしまっているナツツバキの木。

シカに樹皮食いされ枯れた後、朽ちて折れてしまった木。(樹種不明)

この山域の森では、シカの樹皮食いによる倒木が年々増えている。こうして、倒木により林冠が開けても、新しい芽生えは次々にシカに食べられて失われてしまい、次の世代の木が育つことは困難な状況である。

シカは元来、比較的平坦な土地を好むと言われるが、シカの食害によるこうした森の衰退が、急斜面でも起きるようになる恐れがある。今後、保水機能の低下・表土流出・斜面崩壊、ひいては水源林としての機能低下が心配されるところである。

東京都水道局の発表によると、2004年、奥多摩の少なくとも3カ所で、シカの食害による森林荒廃が原因で、大規模な斜面の裸地化・崩壊が起きている。(森林被害の調査報告及び対策については、東京都水道局のプレス発表資料のページをご覧ください。)

こうした事態を受けて、現在、東京都第3期シカ保護管理計画を実施しています。詳細はこちらからご覧ください。

   

奥多摩湖を北岸から南岸へ泳いで渡るメスジカを撮影しました。動画はこちらから

奥多摩では、シカの分布は、1990年少し前くらいまでは、奥多摩湖及び多摩川の北側の地域に限られていました。しかし、近年の個体数の増加に伴い、1990年前後から、それまで分布していなかった奥多摩湖・多摩川南岸地域にも進出して、分布域を広げています。シカが北岸から南岸へ泳いで渡るという目撃情報は聞いたことはありましたが、私自身が実際に目撃したのは初めてです。奥多摩湖岸の留浦・小留浦間を車で走っていた時、泳いでいるシカに気づいて、あわててビデオ撮影した映像です。

2003.12.21 12:20

メスジカが、耳を立てた頭を水面につきだし、逆光に航影を輝かせながら、まっすぐ対岸を目指して泳いでいく。

対岸に上陸して、一目散に鹿倉尾根の斜面を登っていった。

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